
2025年現在、日本の医薬品市場は世界第3位の規模を誇り、人口減少が進む中でも高齢化による医療需要の増大により、依然として外資系製薬メーカーにとって重要なターゲット市場となっています(IQVIA, 2023)。一方、日本特有の規制、文化、商慣習、技術環境への理解不足が、外資系企業にとって事業展開の障壁となるケースが少なくありません。
とくにIT部門の設置やIT戦略の立案は、事業運営の根幹にかかわるにもかかわらず、日本法人の立ち上げ初期には後回しにされがちです。本記事では、そうした外資系企業に代わってCIO機能を果たし、IT戦略の立案と実行を支援するサービスの価値と、日本におけるこのニーズの市場規模について考察します。

1. 日本における外資系製薬企業のプレゼンスと課題
外資系製薬企業の影響力
外資系製薬メーカーは、日本市場においてすでに一定のプレゼンスを確立しており、売上ランキング上位20社のうち約半数を外資系が占めています。ノバルティス、ファイザー、アストラゼネカ、MSDなどが代表的なプレイヤーです(Pharma Japan, 2024)。
共通する課題
外資系企業が日本に新法人を設立する際、以下の課題に直面します:
- 日本独自のレギュレーション(PMDA、GVP、GQP、CSIRTガイドラインなど)への対応
- 本社とのITシステムの整合性と、現地業務への適合の両立
- セキュリティポリシーのローカライズと運用
- 社内IT人材の不在、もしくはリソース不足
- ベンダーマネジメントや外注体制の確立
こうした複雑なIT課題を乗り越えるためには、単なるインフラ整備にとどまらない、事業戦略と一体化したIT戦略の立案と遂行が求められます。
2. CIO代行によるIT戦略立案の価値

(1) 初期段階の経営的判断をIT視点から支援
新製品の発売や市場参入にあたっては、CRM、SFA(Sales Force Automation)、マスターデータ管理(MDM)、承認ワークフローなど、多くのITシステムが関係しています。IT戦略を立案せずに個別導入を行うことは、非効率であり、多くのセキュリティリスク招くことになります。
CIO代行サービスプロバイダーは、経営陣やグローバルIT部門と協議しながら、日本市場特有の要件を取り入れた全体最適なIT戦略を描き、実行計画を策定します。
(2) ITインフラと業務システムの迅速な立ち上げ
- オフィスIT環境(ネットワーク、サーバー、MDM、リモートワーク環境)
- ERP/会計システム、医薬特有のPV(Pharmacovigilance)システム
- 社内ポリシーに基づいたID管理・認証基盤
- データガバナンスとセキュリティアーキテクチャ
これらを現地パートナーと連携しながら、数か月で安定稼働させることは、日本法人立ち上げの成否を大きく左右します。
(3) グローバルITとのハブ機能
多くの外資系企業では、グローバルで統一されたITポリシーや使用ツール(例:SAP、Salesforce、Microsoft 365)があります。一方で、日本独自の稟議フローや商習慣、言語の壁により、現地実装に大きなギャップが生まれます。
CIO代行は、グローバルITと現地現場の“ただの通訳以上のメッセンジャー”として機能し、双方の信頼構築を担う存在となります(Gartner, 2022)。
3. サービス導入事例と成果
ケーススタディ:X社(仮名)
2024年に日本法人を設立した欧州製薬メーカーX社は、新製品の上市に向けて3か月以内にCRM、会計、ITセキュリティ環境の構築が必要でした。CIO代行者は以下を実施:

- グローバルITポリシーをベースに、日本向けITロードマップを策定
- 国内ベンダーとの契約、要件定義、PMO機能を一手に担う
- 上場準備に対応した内部統制(J-SOX)に向けた基盤を整備
結果として、予定通りに製品発売が実現し、当局によるセキュリティ監査も無事通過しました。
4. このサービスの価値の本質
このCIO代行型IT戦略支援の最大の価値は、「ITを単なるツールではなく、経営戦略の実行手段として昇華させること」です。
特に製薬業界では、以下の理由でその意義はより大きくなります:
- 法規制(PMDA、GVPなど)に則した運用が求められる
- データの正確性・保全性が命に関わる
- 臨床試験、マーケティング、医師との情報共有がデジタル中心に移行
- グローバルとの連携が前提であり、標準化・統合が不可欠
また、CIO不在企業においては、「外部CIOの一時登用」によって費用対効果の高い変革推進が可能になります(Forrester, 2023)。
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5. 日本における市場規模とポテンシャル
日本には約70社の外資系製薬企業が存在し、2025年現在も新規参入は続いています(PhRMA, 2024)。このうち、設立3年以内の日本法人の約7割が、IT部門を自前で持っておらず、ベンダー任せになっているという調査結果もあります(Deloitte, 2023)。
以下は市場規模の概算です:
- 外資系製薬企業の日本法人数:約70社
- 年あたりの新規設立件数:約5~10社
- 初年度IT支出予算(平均):1~2億円(インフラ、SFA、セキュリティ等)
- CIO代行・IT戦略立案支援市場規模:年間約50~100億円程度
特に「新製品発売」や「事業拡張(MAH取得)」に関連するタイミングでの需要は今後も高く、2025年以降、デジタルシフトやAI活用が進むにつれてさらに拡大する見込みです(BCG, 2024)。
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6. まとめと今後の展望
外資系製薬メーカーの日本進出は、今後も堅調に続くと考えられます。そして、それに伴うIT基盤の整備と戦略的な活用は、事業成功の大前提です。
CIO代行型IT戦略支援サービスは、以下の3つの価値を提供します:
- 迅速かつ的確なIT立ち上げ
- 本社と現地のギャップを埋めるハブ機能
- デジタルを活用した事業成長の推進力
特に規制が厳しく複雑な医薬業界では、単なるIT導入支援にとどまらない、“経営視点”からのIT設計と運用”が不可欠です。
そのため、本サービスは「一時的な代行」以上の価値を持ち、企業の競争力の基盤となる戦略的ITパートナーとしての役割を担うものといえるでしょう。

参考文献(Harvard Style):
- IQVIA Institute (2023) The Global Use of Medicine in 2023.
- Pharma Japan (2024) Top 20 Pharma Companies in Japan.
- Gartner (2022) Global CIO Survey Report 2022.
- BCG (2024) Digital Maturity in Pharma: Asia-Pacific Trends.
- Deloitte Japan (2023) Pharma IT Readiness Survey.
- Forrester Research (2023) The Role of Virtual CIOs in Emerging Markets.
- PhRMA (2024) Pharmaceutical Research and Manufacturers of America Annual Report.