
2025年現在、偽造医薬品対策は世界規模で喫緊の課題とされており、多くの国でシリアル化(個別識別)とトラック&トレースシステムの導入が義務化されています。とりわけ欧州連合(EU FMD)、アメリカ(DSCSA)、中国、韓国などの主要市場では、医薬品の一連の流通履歴を電子的に追跡可能とすることが、製造・流通・販売の前提条件になりつつあります。
こうした背景の中、海外展開を加速する製薬企業にとって、輸出国ごとに異なる規制に対応したトラック&トレース(T&T)システムの導入は、事業戦略の要となる課題です。
本記事では、当社が支援した「グローバルT&Tシステム導入プロジェクト」の成功事例をもとに、その支援価値、解決アプローチ、他社との違い、そして今後の展望について詳しく解説します。
1. 医薬品業界におけるシリアル化・T&Tシステム導入の潮流
なぜ今、トラック&トレースが必要なのか?
- 偽造医薬品対策の国際義務化
WHOや各国当局による規制強化により、製造番号だけでなく、シリアル番号単位での流通管理が求められています(WHO, 2022)。 - 輸出国ごとの規制の複雑化
国や地域により対応すべき規格(GS1、2Dコード、データ報告先など)が異なり、各国対応を並行して進める必要があります。 - 社内体制と既存業務フローの対応困難
日本国内での販売を主軸としてきた企業にとって、海外向け業務設計、海外ベンダーとの連携、バリデーション活動の知見が不足しているケースが多く見受けられます(Deloitte, 2023)。
2. 当社の支援概要:T&Tシステム導入を包括的にサポート
当社は、海外輸出向け製品に対するシリアル化対応とトラック&トレースシステム導入において、以下の領域を一貫して支援しています。
(1)プロジェクトマネジメント(PM)支援
- 導入計画の策定・フェーズ管理・進捗管理
- ステークホルダー(クライアント・海外ベンダー・3PLなど)との調整
- タイムライン・予算・リスク管理(Issue & Risk Log管理)
(2)ビジネスアナリシスと業務設計
- 輸出先ごとのトレーサビリティ要件の洗い出し(EU FMD, US DSCSA等)
- シリアル番号の生成・貼付・報告フローの業務整理
- 現場業務(包装・検品・出荷)に即したワークフローの再設計
(3)海外ベンダーとの技術調整
- 海外T&Tベンダー(例:TraceLink, Arvato, SAP ATTP等)との要件定義・仕様調整
- 海外システムとのAPI連携、シリアルデータ交換方法の設計
- テスト環境構築とインターフェース試験のリード

(4)バリデーション活動の支援
- URS, FS, DSの作成支援とレビュー
- IQ/OQ/PQ文書の準備とテストリード
- CSV(Computerized System Validation)対応ドキュメント整備
(5)ユーザー支援・定着化対応
- システム操作マニュアルの作成(日本語・英語)
- 現場ユーザー・管理部門向けのトレーニング実施
- 稼働後のシステム保守、問い合わせ対応、変更管理支援
3. 成功事例:複雑な国際プロジェクトの円滑導入を実現
クライアントの背景と課題
大手製薬メーカーB社では、EU向け製品の出荷開始を控えていたが、シリアル化対応の遅れ、トラック&トレース要件の理解不足、海外ベンダーとのコミュニケーション不調により、導入スケジュールが遅延リスクに直面していました。
当社の支援内容
- 業務整理とワークフロー構築を2か月で完了
- 海外ベンダーとの間に立ち、日本語⇔英語の技術要件交渉を代行
- バリデーションドキュメントを短期間で整備し、CSV監査をクリア
- トレーニング資料をクライアント現場用にローカライズし、現場定着を促進
結果
- 海外向け出荷がスケジュール通りに開始
- シリアルデータの誤送信・不整合ゼロを達成
- 今後の北米・中東展開にも適用可能なフレームワークを構築
4. このサービスが提供する本質的な価値とは?
◎ 国際規制対応の“翻訳者”としての機能
- 海外要件をそのまま持ち込むのではなく、日本の業務に合わせた“現実的な落とし込み”を実現
◎ テクニカル+業務フロー両面に精通した支援体制
- 単なるSIerではなく、業務プロセスに即したシステム運用の構築と、実行支援まで提供

◎ 定着・運用フェーズまで見据えた“実行型パートナー”
- トレーニングやマニュアル整備、稼働後保守まで対応するため、社内混乱なく導入完了が可能
5. 今後の展望:T&Tシステムは“義務”から“競争力”へ
今後、シリアル化・トラック&トレースは単なる法対応を超え、企業の信頼性・透明性・レジリエンスを示す指標になります。
- 製品ロットの即時追跡による品質リスク対応スピードの向上
- サプライチェーン全体での可視化・在庫最適化
- 消費者・流通業者からの信頼性向上
これらの価値は、グローバル市場での競争力そのものです。導入は一時的な負担であっても、中長期的には大きなリターンとなるでしょう(BCG, 2024)。
6. まとめ:トレーサビリティ対応は「導入するか」ではなく「どう導入するか」の時代へ
トラック&トレースシステムの導入は、単なる義務対応にとどまりません。組織全体の業務改革とデジタル化を加速させ、将来的なサプライチェーン競争力を強化する起点になります。
私たちは「要件定義だけ」「設計だけ」で終わらず、制度理解から業務定着、保守運用まで一貫して支援する実行型のパートナーとして、御社のトレーサビリティ改革を最後まで支えます。
【調査数の増加に対応】製造販売後調査(PMS)の業務効率化で実現する調査の加速と品質向上
参考文献
- WHO (2022) Global Surveillance and Monitoring System for Substandard and Falsified Medical Products. World Health Organization.
- Deloitte (2023) Serialization and Track & Trace in Global Pharma. Deloitte Insights.
- IQVIA (2024) Compliance Technologies for Global Pharma Supply Chains. IQVIA Institute.
- BCG (2024) The Future of Traceability in Life Sciences. Boston Consulting Group.