
2025年現在、多くの外資系製薬企業がグローバルITシステムの導入に力を入れています。ERP、CRM、SFA(営業支援システム)などを含むこれらのシステムは、業務の標準化やデータ統合、コンプライアンス強化に不可欠な存在です。
しかし、日本法人への導入フェーズにおいてプロジェクトが難航するケースが非常に多いのが実情です。その最大の要因が、「日本市場特有の業務要件」と「グローバルIT方針」との乖離、そしてそれを橋渡しするバイリンガルIT PM(プロジェクトマネージャー)の不在です。
本記事では、そうした課題を解決し、グローバルIT導入プロジェクトを成功に導いた実例をもとに、「グローバルIT PM支援サービス」の価値を紐解きます。
1. なぜ、外資系製薬企業のIT導入は日本でつまずくのか?
(1)IT部門のバイリンガル人材不足
外資系企業では英語を公用語としながらも、日本法人では現場担当者の多くが日本語と同レベルの英語を話せないのが現状です。一方、本国のIT担当者は日本市場の複雑さや規制背景を理解しておらず、IT要件の橋渡し役が不在となり、誤解や遅延が頻発します(Gartner, 2023)。
(2)Fit & GAP分析が不十分
導入するグローバルパッケージは優れた製品であっても、日本市場や医薬業界固有の商習慣・業務要件と完全には一致しません。例えば:
- 医薬品コード体系や帳票の様式
- 薬機法対応の報告機能
- 医療従事者管理・透明性ガイドライン対応
これらを十分に分析せずに導入を進めると、「Fitしていないシステムが導入される」という本末転倒の結果となります(Deloitte, 2024)。

(3)グローバルとベンダーの板挟み構造
本社ITチームは「グローバル標準への準拠」を重視する一方、日本の現場は「業務の現状維持と持続性」や「直近の法令対応」を優先します。そこに国内外のベンダーが加わることで、調整が複雑化し、責任の所在が曖昧になりやすいのです。
2. サービス概要:グローバルIT PM支援の中身とは?
優れたサービスプロバイダーが提供する「グローバルIT PMサポートサービス」は、以下のような業務を一貫して担います。
(1)要件定義・Fit & GAP分析
- 日本特有の業務要件のヒアリング
- グローバルシステムとの整合性検証
- GAP領域への対応方針策定(カスタマイズ/運用変更)
(2)グローバルチームとの連携
- 英語での定例会・調整会議ファシリテーション
- 本社開発側との仕様確認・承認取得
- ステークホルダーへの進捗レポート提出
(3)プロジェクトマネジメント

- スケジュール/予算管理
- リスク・課題管理(Issue & Risk Logの運用)
- 進捗管理と課題解決支援(ウォーターフォール/アジャイル両対応)
(4)ベンダー管理・監査対応
- SIer、クラウドベンダーとの契約調整、納品物レビュー
- テスト計画・受入試験支援
- CSV(Computerized System Validation)対応
3. 成功事例:ある外資系製薬企業の導入プロジェクト
プロジェクトの背景
欧州系グローバル製薬企業X社では、日本法人へのCRM・ERPの統合導入プロジェクトが計画されていました。しかし、バイリンガルIT PMの採用が難航し、プロジェクトが立ち往生していました。
当社の介入と成果
優れたサービスプロバイダーが、IT PMとして以下の役割を十分すぎるほどに果たしました。
- 日本側要件の取りまとめ・翻訳とFit & GAP分析
- グローバル会議への出席と仕様交渉
- ベンダーの納品物チェックとタスク調整
その結果、当初半年遅れが見込まれていたプロジェクトが、予定どおりのスケジュールで完了。稼働後のトラブルも最小限に抑えられました。
4. このサービスの価値と差別化ポイント
◎ 英日バイリンガルで、ITと業務両方を理解
- IT専門用語と業務知識を備えた人材が対応
- 医薬業界特有のSOP、監査対応も理解
- 日本法人⇔本社ITの信頼関係構築を代行
◎ 中立的な立場でプロジェクトを統制
- ベンダーに依存しないPMとして、クライアント利益を最優先
- グローバル本社と現場の“調停者”あるいは”交渉人”として機能
- トラブル時にも第三者的視点で冷静に収束対応

◎ コンプライアンス・セキュリティにも対応
- 21 CFR Part 11、Annex11、CSVなどに準拠
- 医薬品業界の監査にも耐えうる体制整備をサポート
5. まとめ:IT導入の成否は“翻訳力”と“交渉力”にかかっている
グローバルパッケージの導入が、企業の業務改革やデータ活用の基盤になる一方で、その成否を分けるのは、現場の声を正しく翻訳し、グローバルチームと対話・交渉できる人材の有無です。
当社の「グローバルIT PM支援サービス」は、システムを“導入すること”ではなく、“定着させ、成果を出すこと”をゴールに据えています。
医薬企業に必要なのは、単なるサービス業者ではなく、味方として並走するITのPMパートナーではないでしょうか?

参考文献(Harvard Style)
- Gartner (2023) Bridging Global-Local IT Gaps in Pharmaceutical Industry. Gartner Inc.
- Deloitte (2023) Pharmaceutical IT Digital Readiness Survey Japan. Deloitte Tohmatsu Consulting.
- IQVIA (2024) Healthcare IT Trends in Asia-Pacific: Outlook 2025. IQVIA Institute.